東京高等裁判所 昭和29年(う)2593号 判決
被告人 渡辺正太
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点の(三)について。
原判決が証拠の標目として「証人飯田栄七、塚田政三、宮地勇の各証言」並びに「被告人に対する司法警察員作成の供述調書中公訴事実に照応する部分の供述」と記載していることは所論の如くであり、その後者の記載はやや粗笨のそしりを免れないけれども、原審において証拠調を経た被告人の司法警察員に対する供述調書は原判示第一の窃盗の点に関する司法警察員飯田栄七の作成に係る昭和二十九年四月二十六日附弁解録取書、同宮地勇の作成に係る前同日附供述調書同司法警察員の作成に係る同年五月二十一日附供述調書並びに原判示第二の賍物故買の点に関する司法警察員宮地勇作成に係る昭和二十九年五月二十一日附供述調書の四通が存するから原判決の記載の趣旨は右各供述調書中の原判示事実に夫々符合する各供述記載を採証したものと解すべきであるが、本件窃盗の点に関する公訴は昭和二十九年五月四日に提起されたものであることは本件記録編綴の起訴状の記載により明白であり、証人宮地勇の供述によれば飯田栄七、塚田政三等が被告人と共に原判示窃盗現場へ引き当りに赴いたのは本件窃盗事件が起訴された後であることがうかがわれ且つ前記窃盗の点に関する昭和二十九年五月二十一日附供述調書が本件窃盗事件の起訴後作成されたものであることはその作成の日に徴し明らかである。そして論旨はかくの如く公訴提起後において司法警察員が被告人を取り調べることは刑事訴訟法第百九十八条に違反するものであり、かかる違法な取調の結果を証人の口をとおして、あるいは供述調書として法廷に提出せしめ、しかもこれを無条件に判示事実の証拠に供している原審の措置は証拠採用の法則に違反すると主張するからこの点について考えるのになるほど刑事訴訟法第百九十八条は「検察官、検察事務官又は、司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる云々」と規定している。しかし同法第百九十七条により明らかなとおり搜査官の任意搜査については別段の制限はなくその目的を達するため必要な取調をすることができるのであり、搜査官の任意取調の権限が前記第百九十八条により創設されたものとは解し難く、従つて同法条の被疑者という文字にかかわり同法条の文理にもとづきその反対解釈として搜査官は起訴後は当該被告事件について被告人を取り調べる権限はないと主張する所論は採用できない。勿論起訴後においては被告人の当事者たる地位に鑑みその相手方たる検察官あるいは司法警察員が被告人を取り調べることはその公判への影響を考えればでき得る限りさけなければならないことは当然であるが、本件記録により明らかなとおり本件の取調はいずれも原審第一回公判期日前においてなされたものであり引き当りの点についてもこれを強制した事実は認め難く且つ前記窃盗の点についての供述調書の作成された昭和二十九年五月二十一日には当時未だ公訴の提起されておらなかつた原判示第二の賍物故買の点についての調書も作成されておるところからみれば前記宮地勇は当時被告人がたまたま野方警察署に勾留中であつたのでただ念のためさきに取り調べた窃盗の点について再び被告人の任意の供述を求めたものであるものと認められ、殊に前記窃盗の点についての供述調書中には被告人がさきに昭和二十九年四月二十六日同司法警察員の面前において自白した高田馬場駅附近並びに高円寺駅附近における自転車窃盗の件はいずれも嘘である旨の供述記載がありこれらの点からみても被告人の前記供述が任意になされたものでない疑はすこしもない。従つて原審が前記飯田、塚田両証人の第一回公判期日前公判準備のための捜査過程において被告人を任意取り調べた結果を公判廷において供述せしめこれを採証し、あるいは司法警察員宮地勇が被告人の起訴後第一回公判期日前において作成した前記供述調書を採証したことをもつて違法であるとする論旨は採用し難い。それゆえ論旨は理由がない。